医師は、病気の人を助け、病気を防ぐことが使命です。この地球上には沢山の医師がいます。これは、病気に苦しむ人が沢山いることと並行しています。私達医師は、この状況少しでも良くするため、日々努力を続けていますが、しばしば壁に突き当たります。そんなときに、医療の問題を解決するために立ち上がった人達の人生を知る事は、 本当に励みになるのです。
今回は、遺伝子異常ががんの原因である事を発見した、Janet D.
Rowley先生(シカゴ大学医学部内科学、遺伝学教授)の人生を振り返ってみましょう。Rowley先生は、1925年に米国ニューヨークで生まれました。すぐれた頭脳の持ち主だったRowley先生は、19才でシカゴ大学を卒業しました。米国では、医学部は大学院として存在しています。大学卒業後、医学部進学を考えたRowley先生でしたが、当時は、女性の医学生を受け入れる大学が少なく、一年待って、初めて女性の医学生を受け入れることになったシカゴ大学医学部に入学します、1945年の事です。医学部の同級生と結婚、卒業後は、子供達の面倒を見るために、パートタイムの内科医として働き始めした。このRowley先生の転機となったのが、英国留学です。医学部卒業から16年後となる1961年、Rowley先生は、ご主人とともに、英国の一流大学であるオックスフォード大に留学し、染色体を解析する技術を学びました。この技術が様々な病気のメカニズムの解明に役に立つと直感したRowley先生は、米国に帰国後、シカゴ大学にお願いし、ベイビーシッターを雇えるだけの給料で、顕微鏡を装備した小さな研究室をスタートさせました。ここで、血液がんの染色体解析を始めます。1970年にもう一度オックスフォードでさらに新しい技術を学び、1972年に、ついに白血病のサブタイプであるAMLに、染色体変異がある事を発見します、大発見です!Rowley先生は、正常人の染色体の写真を切り抜いたものと、AML白血病の患者さんの染色体の写真を切り抜いたものを自宅のテーブルに並べ、慎重に比べているときに、この発見にいたりました!写真が吹き飛ばないよう、子供にくしゃみをしないように注意したそうです。この後、次々と血液のがんの染色体異常を発見します。一番有名なのは、CML白血病の染色体変異を発見したことでしょう。この染色体変異の発見は、後に、Drs.
Drucker and SawyearsのCMLの遺伝子変異をターゲットにした治療薬であるGleevecの発見につながりました。新しい技術を、がんの根本的なメカニズムを解明する事に利用したRowley先生の直感は素晴らしいものです。この功績により1998年にはラスカー賞を受賞しています。Rowley先生は、その謙虚な人柄で知られており、次のような言葉を残しています。“People accuse me of being too
humble, but looking down a microscope at banded chromosomes is not rocket
science.”