2014年2月7日金曜日

Fulfill unmet medical needs-がんの診断、治療法を変えたDr. Rowleyの生涯 (In Japanese)

医師は、病気の人を助け、病気を防ぐことが使命です。この地球上には沢山の医師がいます。これは、病気に苦しむ人が沢山いることと並行しています。私達医師は、この状況少しでも良くするため、日々努力を続けていますが、しばしば壁に突き当たります。そんなときに、医療の問題を解決するために立ち上がった人達の人生を知る事は、 本当に励みになるのです。


今回は、遺伝子異常ががんの原因である事を発見した、Janet D. Rowley先生(シカゴ大学医学部内科学、遺伝学教授)の人生を振り返ってみましょう。Rowley先生は、1925年に米国ニューヨークで生まれました。すぐれた頭脳の持ち主だったRowley先生は、19才でシカゴ大学を卒業しました。米国では、医学部は大学院として存在しています。大学卒業後、医学部進学を考えたRowley先生でしたが、当時は、女性の医学生を受け入れる大学が少なく、一年待って、初めて女性の医学生を受け入れることになったシカゴ大学医学部に入学します、1945年の事です。医学部の同級生と結婚、卒業後は、子供達の面倒を見るために、パートタイムの内科医として働き始めした。このRowley先生の転機となったのが、英国留学です。医学部卒業から16年後となる1961年、Rowley先生は、ご主人とともに、英国の一流大学であるオックスフォード大に留学し、染色体を解析する技術を学びました。この技術が様々な病気のメカニズムの解明に役に立つと直感したRowley先生は、米国に帰国後、シカゴ大学にお願いし、ベイビーシッターを雇えるだけの給料で、顕微鏡を装備した小さな研究室をスタートさせました。ここで、血液がんの染色体解析を始めます。1970年にもう一度オックスフォードでさらに新しい技術を学び、1972年に、ついに白血病のサブタイプであるAMLに、染色体変異がある事を発見します、大発見です!Rowley先生は、正常人の染色体の写真を切り抜いたものと、AML白血病の患者さんの染色体の写真を切り抜いたものを自宅のテーブルに並べ、慎重に比べているときに、この発見にいたりました!写真が吹き飛ばないよう、子供にくしゃみをしないように注意したそうです。この後、次々と血液のがんの染色体異常を発見します。一番有名なのは、CML白血病の染色体変異を発見したことでしょう。この染色体変異の発見は、後に、Drs. Drucker and SawyearsCMLの遺伝子変異をターゲットにした治療薬であるGleevecの発見につながりました。新しい技術を、がんの根本的なメカニズムを解明する事に利用したRowley先生の直感は素晴らしいものです。この功績により1998年にはラスカー賞を受賞しています。Rowley先生は、その謙虚な人柄で知られており、次のような言葉を残しています。“People accuse me of being too humble, but looking down a microscope at banded chromosomes is not rocket science.”

2014年2月3日月曜日

遺伝子診断: 心臓病を予想する 4-predict and prevent arrhythmia (in Japanese)

ワシントン大学の医学部は201311月末、心臓病の中でも希少疾患ながら、突然死を引き起こすやっかいな病気としてしられている不整脈、心筋症の関連遺伝子69個を一度のエクソン解析から分析する、新しい遺伝子診断サービスの開始を発表し、CardioGene Setと名付けました。なぜ、この心臓病の遺伝子診断が、患者さん達の未来にポジティブなインパクトを与えるのでしょうか?

心臓の疾患で、遺伝子診断が最も成果を発揮している分野と専門家が広く認めているのが、イオンチャンネルの異常によって起きる疾患群です。イオンチャンネルというのは、私達の体の細胞の中の電解質の量を調節しているチャンネルです。つまり、私達の体の細胞内のカルシウムや、ナトリウムの量を、ある一定の濃度内に保っているチャンネルです。このチャンネルに異常が起きると、細胞内のカルシウムなナトリウムの量が正常範囲内を下回ったり、上回ったりするようになり、細胞がおかしくなってきます。

Long QT症候群は、イオンチャンネルによって不整脈が起きる疾患群で、遺伝子診断が決定的に重要な役割を果たしています。Long QT症候群では、すでに10以上の原因遺伝子が発見されており、それぞれの遺伝子異常が、どの位突然死を起こしやすいかという研究が進んできています。Long QTで一番怖いのは、Torsades  de pointes(トルサデポワン)とよばれる、特徴的な心電図のパターンをしめす不整脈につながることです。この不整脈は、心拍数の異常な上昇につながり、死に至る事があります。Long QTを遺伝子異常のパターンによって分類することは、Torsades de pointesに移行する可能性の予測、それを防ぐための治療法の選択に大きな役割を果たします。つまり、遺伝子診断が、予後の予測だけでなく、予後の改善に役立つのです!


それでは、このような心臓病の遺伝子診断が可能になったバックグラウンド、医師の役割について次回は述べていきましょう!

2014年2月1日土曜日

遺伝子診断: 心臓病を予想する 3-predict and prevent arrhythmia (in Japanese)

遺伝子診断はなぜ有用?

ワシントン大学では、心臓病の遺伝子診断プログラムをスタートさせました。これは、CardioGene Setと名付けられています。Cardiac Gene Setsは、 通常の診療プロセスの中に組み込まれており、血液検査や心電図を使った検査を行うのと同じように、遺伝子診断をオーダすることが 医師により行われるようになっています。この心臓病の遺伝子診断を考える前に、遺伝子診断が今、どのように使われているかを考えてみましょう。

遺伝子と病気との関連づけは、循環器疾患、癌、潰瘍性大腸炎やクローン病、小児の遺伝病、神経変性疾患など、様々な疾患において近年急ピッチで進展しています。この、急ピッチで進む疾患メカニズム研究の進展にもかかわらず、これらの疾患の発症を正確に予測し予防するレベルには達していません。また病気の進展を劇的に防ぐ段階にも達していないと言えるでしょう。

それでは遺伝子診断の意義はどこにあるのでしょう? 遺伝子診断は、ここ2、3年という短期間で、多くの診療科、疾患分野において、 臨床の現場で使われるようになっています。特に2つの分野で遺伝子診断が患者の治療法、QOL、予後の改善に寄与する事が明らかです。1つは、monogenic diseaseと呼ばれる、単一遺伝子の異常がはっきりと疾患の進展を予測できる場合に、症状と遺伝子情報を照らし合わせ、患者さんの確定診断を行う事ができる事です。もう1つは、癌の分野において、ある癌に特定の遺伝子異常が認められた場合、その遺伝子異常に効果的である事が明らかになっている抗がん剤を処方する事ができることです。


さて、それでは、次回はいよいよ心臓病の遺伝子診断が、患者さん達の未来にポジティブなインパクトを与えるのか考えていきましょう!